ATO、ワーホリに裁判で負ける
2021年11月3日、High Courtにてイギリス人ワーホリ女性 Addy 対 ATOの裁判の判決が出ました。
ワーホリ税、通称バックパッカー税は違法である
という判決が出ました。
この裁判は簡単に言うと、ビザがワーホリというだけで異なる税率を科すというワーキングホリデー税率(通称バックパッカー税)は租税条約に違反する“差別的行為”ではないかという裁判です。Addyさんというイギリス人のワーホリがATOに対して訴えた裁判です。
Addy v Commissioner of Taxation [2021] HCA 34 (3 November 2021)という裁判です。
これまでブログやフェイスブックでもお伝えしてきましたが、3年近くも裁判しており、1審でATOの敗訴、2審でATOの勝訴、上告で今回ATOの負けが決定となりました。
厳密には廃止ではなく、あくまでオーストラリアが租税条約を結んでいるイギリス、アメリカ、ドイツ、フィンランド、チリ、日本、ノルウェー、トルコの8か国出身のワーホリに
合法でワーホリ税という特別税率を科してはならない
ということです。まあ、ほぼ廃止ということなのですが。
つまり、韓国や台湾、イタリア、フランスなどの国からのワーホリには今回のニュースはとりあえずは関係ありません。
この結果、ワーホリはワーホリビザだからといって特別な税率ではなく、通常の居住者や非居住者の税率で扱う、ということになります。この場合、人によっては1,000ドルから数千ドルの返金が考えられます。以下に述べますが、問題はここからです。
そもそもバックパッカー税とは
バックパッカー税とは2017年1月から始まったワーキングホリデービザを持っている方に対し専用の高い特別税率を適用するという
ワーホリ専用の税金のルール
です。
このワーホリ税、通称バックパッカー税はATO Schedule 15に載っており、
- 417ビザ(日本人にとってのワーホリビザのこと)
- 462ビザ
- 上記の2つのビザから次のビザを申請中のブリッジングビザ(元ワーホリがブリッジングビザ期間中にたくさん税金を取られないために参照)
の方が対象となり、
- 非課税枠なし(税金のかからない範囲)なしで1ドルから課税
- 45,000(2020年まで37,000ドル)ドルまで15%、それを超える部分は32.5%の税率
という非課税枠(税金のない範囲)もなく、税金はオーストラリア人、永住者、ビジネスビザ、学生ビザなど一時滞在ビザ保持者よりも高い税率です。
このようにバックパッカー税は
ワーホリビザというだけで同じ仕事をしているのに、他のビザの保持者やオーストラリア人よりも高い税金が科せられるという無茶苦茶な、不公平なルール
です。
つまり、
ワーホリというだけで同じ仕事をしてもたくさん税金を取られるということです(怒)。
レストランで隣で並んで皿洗いをしている同僚が学生ビザ、自分がワーホリビザとすると、全く同じことをしていてもワーキングホリデービザを持っているというだけで自分は税金をたくさん取られるというものすごく不公平な扱いです。。。
選挙権もない、ワーホリ人気もある、オージーなどこっちに住んでいる方は興味もない、といったワーホリをドル箱と言わんばかりの政策です。まあ、オーストラリア政府もワーホリ人気に便乗しうまいところに目を付けたものです。
バックパッカー税と居住区分は別問題
さて、バックパッカー税15%とタックスリターンの居住者・非居住者の問題をチャンポンに考えてしまう方が多いのですが、この2つは直接関係ありません。
多くの方がこのバックパッカー税と税法居住区分をごちゃごちゃに考えているからややこしいことになります。バックパッカー税と居住者か、非居住者かどうかというのは別々に考える必要があるということです。
そもそもバックパッカー税が廃止にならずとも、上記の低所得者控除、低中所得者控除があるので居住者なら通常900ドルほどの返金があります。
まず、勘違いしやすいポイントを解説してみましょう。
ワーキングホリデービザの税金の構図は以下となります。
ワーホリ税 | |
居住者 | 非居住者 |
低所得者控除あり | 低所得者控除なし |
最近こそ減ってはきてはいますが、
1つの所にずっと住んでいたから居住者で、18,200ドルまで税金がかからない
とか
非居住者だからワーホリ税の15%になる
とか
自分はワーホリだけど居住者だからワーホリ税は関係ない
などと勘違いしている方がいるのも事実です。
しかし、上記の表のように、
ワーホリはワーホリ
です。
ワーキングホリデービザの間に稼いだ収入に対しては居住者であろうが、非居住者であろうが、バックパッカー税の対象というわけです。もしくはワーホリからディファクトビザやビジネスビザを申請し、ブリッジングビザで待っている方も対象です。
つまり、
非課税枠(税金のない範囲)はなく、1ドルから税金がかかり、課税収入が
- 1ドルから45,000(2020年まで37,000ドル) 15%
- 45,000ドルから120,000ドルまで(2020年まで90,000ドル) 32.5%
- 120,001ドルから(2020年まで90,000ドル)180,000ドルまで 37%
- 180,000ドルより上 45%
です。
そして、
ATOはほとんどのワーホリは税法上の非居住者だ
としています。
そして、ATOにほとんど非居住者として強引に処理されています。居住者として通った方がいればたまたまバレなかっただけです。
これは仕方がない部分があります。多くのワーホリが転々と住む場所を変え、ロングバケーションの旅行者のようにふるまっているからです。ワーキングホリデービザのホリデーの方が比重が多い方達です。詳しくはワーホリ タックスリターン居住者・非居住者問題を。
そして、バックパッカー税がなくなるとワーホリの税金はどうなるのか
税法上の居住者の場合はオーストラリア人や永住ビザ保持者と同じ税率です。これでかなりの額のタックスリターンの返金を得ることができます。逆に非居住者の税率非課税枠(税金のない範囲)はなく、120,000ドルまで32.5%もの税金が科されます。日本に住んでいる方がオーストラリアから収入がある場合などはこの非居住者税率が使われます。
さて、ここまで読んできた方で勘の良い方ならロジックを組み立てられるはずです。
- バックパッカー税がなくなる
- ワーホリはほぼ全員、税金上の非居住者である
この2つを組み合わせるとどうなるでしょうか?
そうです、バックパッカー税がなくなるとすると逆にATOは昔のバックパッカー税施行前のように税法上の非居住者としようとする可能性があります。しかし、ご安心を。ワーホリビザの場合で非居住者の場合でも税率はバックパッカー税の課税所得45,000ドルまで15%で済みます。
ATOの判決後のコメントが以下です。
この裁判後のコメントでも
ほとんどのワーホリの目的は働きに来たのではなくホリデーに来ているので税法上の非居住者である
と述べています。
この判決はあくまでバックパッカー税に関するもので、居住者か、非居住者かどうかという問題ではありません。この裁判に勝ったイギリス人のAddyさんの場合はワーホリの間の生活状況から税金上の居住者であることが認められています。Addyさんは1年間ずっとシドニーに住んでいましたし、働いていたのもずっとシドニーでした。
実際、2019年10月11日のStockton v Commissioner of Taxation [2019] FCA 1679の裁判の判決ではアメリカからのワーホリが非居住者判決を受けました。会計年度内に183日より多くオーストラリアで過ごしてはいるが、オーストラリアで住んでいたのがAirbnbやバックパッカー、短期宿泊施設、住む場所を転々としていることから、“主たる住居はオーストラリアではなく出身のフロリダである“ということになり非居住者であるという判決を受けました。よくあるワーホリの滞在形態です。
つまり、ワーホリが居住者となる保障は全くないわけです。非居住者となるとどうなるか、そうなると上記のように今より悲惨な結末になります。このAddyさんのケースはAddyさんが税法上の居住者と認められたから話がよく聞こえるのです。
とはいっても一定のワーホリにはタックスリターンでよい結果になる
ただ、現在のワーホリだからというだけで無理やり非居住者として処理をする強引なやり方ではなく、かつてのように 「なぜあなたは居住者なのか」 という監査をした上での変更になるとすると、フェアなのももちろんですが、監査は人員も手間もかかるので、かつてのように居住者として通る方が多くなる可能性が考えられます。
この裁判の結果で、ワーホリはほぼ全員非居住者である、という強引な言い分も通じなくなるでしょう。
逆に居住者となれば最初の方で述べた通り、ほとんどのワーホリはタックスリターンで1,000ドルから数千ドルの返金があります。これは遡っても適用される可能性があるため、もう日本に帰った方、数か月前にタックスリターンを申告した方、など影響を受ける方はものすごい数になります。
今のところ、ケースバイケースで居住区分を判断するということです。ただ、ATOはワーホリのほとんどは非居住者である、というスタンスは変えておりません。
どちらにしても、知っているもの勝ちである部分はあります。
バックパッカー税がなかったころのように一部のワーホリにのみ監査を掛けてくるのか、今のように問答無用でほとんどのワーホリを非居住者に無理やり変更して処理するのか、などいろいろなシナリオが考えられます。
ワーホリがタックスリターンで居住者となるために
まずワーホリは99.9%非居住者ということになっています。今回のワーホリ税の裁判はあくまで原告が居住者であると認められたうえでの判決です。住む場所を転々としてる方は気をつけましょう。もしバックパッカー税がなくなったときに居住者となれるようレントの賃貸証明書、住んでいた証拠などを取っておきましょう。過去の監査では提出が求められました。
半年どこか同じところに住んでいれば、という勘違いをされている方がまだまだいるようですが、そんな簡単なものではありません。
また、他の居住区分の判例からも、同じ町ではなく同じ住居であることが強い要素となっています。あと、考えれば分かりますが、バッパーやファームの宿泊施設は一時的な住居とみなされる可能性が120%です。
同じ家、せめて同じ都市、町に限りなく長く住んでいることが成功への近道となります。過去の傾向から働いた会社が少ない方が居住者になることが多くなっています。
仮にセカンドやサードワーホリのためにファームに行くにしてもファームでの仕事が終わったらまたいたところに戻りましょう。
- 1年間は同じ住所に住む。せめて同じサバーブ。転々としない。
- あまり多くの雇用主(会社)で働かない。
ということが重要となってきます。
ワーホリ中に様々な都市を転々としたり、ラウンドをしながら生活している、というのは残念ながら居住者となるのは厳しいと言わざる得ません。まあ、これは当然で短期滞在ビザでオーストラリアに来て長期の旅行のようなことをしているからです。
ワーホリがタックスリターンのために今からするべきこと – 数千ドルの違いが出ます
上記の通り、この裁判は税法上の居住者であって始めて意味があります。
ATOに基本的には皆非居住者だ、とされているワーホリが居住者であることを証明する記録を持っておくことが重要となります。
まず、証明できる証拠が必要となり、そのために以下を保管、記録しておきましょう。
- オーストラリアにいる間に住んだ町、都市、期間の記録
- シェアハウス、レントなどの契約書
- レントを払っていたという銀行明細での出金証明
- ワーホリの間の短期旅行の記録
- ワーホリの前に日本にいた時、ワーホリが終わって日本に帰ってから、レント、実家、持ち家、どのような場所に住んでいたか、住むかの証明
- ワーホリからワーホリ以外のビザ、ワーホリ以外のビザからワーキングホリデービザを申請した場合はイミグレーションからの申請、取得控え
特に2と3と5は重要です。
現金で払いナアナアと記録を残していない
シェアハウスでもそこにどれくらいの期間住んでいたという証明もない
となっては一定の場所に住んでいても居住者だと言うのは難しくなります。
つまり、
- できる限り同じ家、せめて同じ都市、町に住む(同じ州ではない)。
- 通常契約書なんてないシェアハウスでもシェアオーナーに契約書を作ってもらう。
- 支払いは現金ではなく銀行振込で行う。現金払いの場合は毎回領収書をもらう。
- 日本を出てワーホリでオーストラリアに来てからは日本に主たる住居はない、特定の帰る場所はないと言い切る。日本では家なき子。
ことが重要となります。
ただし、税金はあくまで結果です。税金のためにせっかくの限られたワーホリ生活にやりたいことをしないのももったいない話です。仮に税金が多くなってもその中での節税を考えましょう。
どう転んでもタックスリターンで返金が欲しい方はこちらを。
この判決で確実に結果がよくなるケース
- 会計年度内に学生ビザやパートナービザ(820ビザ)、ビジネスビザなどワーキングホリデービザ以外のビザを申請した方
- ワーホリビザから直接他のビザを申請し、ブリッジングビザ中の方。特にビザ申請から長い間ブリッジングビザが続くパートナービザ(820ビザ)の方
は今までも居住者として認められていたのでバックパッカー税がなくなると税金額は減ります。学生ビザやパートナービザを申請された方でEzy Taxで修正した記憶がある方も多いかと思います。このような方はこの裁判の結果により結果が好転します。
現在の状態と今後の展開 – 2017年1月1日以降にオーストラリアでワーホリビザで働いた日本人全員に影響
ATOはこの裁判の結果を受け、今のところは雇用主も今まで通り、随時対応を発表していくとのことです。まあ、待ちましょう。
税法の判決は過去に遡ります。
つまり、
今までバックパッカー税に影響を受けていた方全員に関わる問題です。2017年1月1日以降にオーストラリアでワーホリビザで働いた日本人全員です。
今まで申告された過去のタックスリターンに影響するため、ATOは修正なども受け付ける必要が出てきます。そもそもタックスリターンを申告していないという方も対象となります。もちろん、これにより結果が好転するのは上記の税法上の居住者となるワーホリのみです。
再度、
この裁判のワーホリ税率の問題と、ワーホリの居住者、非居住者の問題は関係ありません。
よって、ATOも過去のタックスリターンの修正を全部自動で居住者として認めるといったこともできず、ケースバイケースでObjection という異議申し立てで処理していくことが考えられます。そうなると、コンピューターでの自動処理ができず、人間である担当官が一つずつ審査していくことになるのでかかる労力も莫大です。ATOがこの判決を受けてどのような対応をしていくか今後も注目です
何かあれば随時Ezy Tax Solutins JapanのフェイスブックやフェイスブックEzy Tax Solutins Japanグループページでも公開していきます。ワーホリ世代には人気のないフェイスブックですが、ぜひご覧ください。
ワーホリタックスリターンお申込みはEzy Tax Solutions Japan ワーキングホリデータックスリターンまで。オーストラリア人でもほとんどが税理士に頼む時代。ワーホリ滞在中のお金のことはEzy Taxがお世話します。