スーパーアニュエーション(Superannuation)とは
イマイチ何のことなのか分からないスーパーアニュエーションとオーストラリアの年金システム。このオーストラリアの年金制度は他国より安定した景気も手伝い、おそらくグレートバリアリーフでも、バナナでも、エアーズロックでも、鉄鉱石でも、オージービーフでもなく、オーストラリアが一番世界に誇れるスーパーアニュエーション。とてもうまくできたシステムです。
スーパーアニュエーションとは、オーストラリアの確定拠出年金制度です。ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、自分の老後のために積み立てていく自分専用年金です。給料額の10%にあたる金額を給料に上乗せで、会社が従業員が加入しているスーパーアニュエーション(年金管理会社)のアカウント(年金口座)に支払うことが義務付けられています。つまり、スーパーアニュエーションは皆様の給料の一部を年金として積み立てるものです。オーストラリアで働くならビザの種類に関わらず必ずスーパーアニュエーションのアカウントを開設しなくてはなりません。スーパーアニュエーションは給料から引かれるものではなく、給料に10%上乗せで払われるもので給料のようなものです。
今回はよくある税理士の教科書通り、聞くだけ無駄の内容ではなく、実際に皆様の生の声を多く聞いてきた経験から別の視点でスーパーアニュエーションについて解説していきます。Google検索やフェイスブックで出てきたページかもしれませんが、あなたはラッキー。ファイナンシャルプランナーや税理士に聞いたら数百ドル軽く取られる内容を知ることになります。
オーストラリアの老齢年金は2階建て
この国の老後の年金は2階建てになっています。まず、1階はセンターリンクからのAge Pension。これは国から払われる年金です。1957年以降に生まれた方は67歳から受給資格があります(2020年5月現在)自分がいくら年金を払っていた、というのは関係なく、収入、資産額により国から払われる老後の補助金です。自分の箱にお金が入っているわけではなく、他のセンターリンクの補助金のように条件を満たした方皆に支払われます。財源は税金です。自分がいくら払ったからその分いくらもらえる、ということはありません。
次に、2階に来るのがスーパーアニュエーション。スーパーアニュエーションとはオーストラリアの確定拠出年金制度です。自分の老後のために自分で積み立てていく自分専用の年金です。自分のスーパーアニュエーションという自分専用の箱に積み立てられ、その箱の中にある残高を元に老後に引き出せます。これは1階のAge Pensionと異なり、自分が多く積み立てればそれは自分のもの(自分の箱)として、自分が多く引き出せます。つまり、たくさん積み立てればたくさん老後に使えるわけです。
ちなみに、日本の国民年金は年金手帳などあり、一見自分の箱があるように見えるのですが、実際は自分の箱の分が他人に回ります。払うことが受給の条件になるだけで自分の払った分を将来もらえるわけではありません。自分が払った分をもらえる保証はないにも関わらず自分の箱があるかのように払うので自分の箱の中のお金を他人が使っている、という構図になり払うと何か損した気分になるのです。日本の年金は実質は税金のようなものです。日本とオーストラリアが社会保障協定によりオーストラリアのスーパーアニュエーションを積み立てていた期間が加算されますが、これはあくまで日本の年金の受給資格の一助になるにすぎません。
そして、日本の年金は永住ビザを持っている場合オーストラリアで課税収入(税金のかかる収入)となります。
スーパーアニュエーションは貯金ではなく投資ファンド
さて、スーパーアニュエーションは投資信託、投資ファンドです。投資信託はお金を預けて、投資のプロがそれを運用して増やす努力をしてくれます。投資信託が何かは
オーストラリア投資信託 – Managed Fund(マネージドファンド)VS Superannuation (スーパーアニュエーション)
をご覧ください。
スーパーアニュエーションは投資ファンドですので、投資のうまい、下手、成功、失敗により残高(バランス)が上下します。スーパーアニュエーションにはいろいろなスーパーアニュエーションファンドがありますし、スーパーアニュエーションの中にもいろいろなコースがあります。海外の株に投資するのものや、オーストラリア株に投資するもの、不動産に投資するもの、定期預金に投資するものなどハイリスクハイリターンからローリスクローリターンまでいろいろなコースがあります。このコースは自分で選ぶことができ、どれに何%という配分も自分で決められます。
定期預金くらい安全な投資先で運用できるプランもありますが、ローリスクローリターンの原則から減りはしませんが、あまり増えもしません。昨今の低金利の時代ではなおさらです。逆にハイリスクハイリターンの場合は増えるときは増えるが、減る時は減ります。2008年のGFC(Global Financial Crisis)やコロナウイルス禍で景気が悪い時はハイリスクハイリターンの場合は減り方が大きくなっています。ハイリスクハイリターンの割合が多い私は今回のコロナで2か月で残高が30,000ドル減りました。
どのスーパーアニュエーションファンドを選べばよいのか
これは一概には言えません。
- 運用成績がよいところ
- サービスのよいところ
- 利便性から自分の銀行と同じところ
- 手数料の安いところ
など選ぶ理由はいろいろあります。
仮にこの年運用益がよいからと言ってもそのスーパーアニュエーションファンドが次の年も成績がよいかどうかは分かりません。昨年絶好調だった野球選手が今期は全然打てない、というのと一緒です。
また、10年を通してなのか、5年を通してなのか、短期的になのかなどどの期間で運用益がよかったかというのも考慮する必要があります。
スーパーアニュエーションのランクについてはBest performing super funds over the last financial year (to June 2019) やTop 10 Super Fundsなどに載っています。
私のお勧めは運用成績、利便性からAustralian Retirement Trust。別に手数料商売をしているわけでもなく、Sunsuperからコミッションをもらっているわけでもないのでご安心を。
スーパーアニュエーションファンドの変更は簡単です。自分が加入したいスーパーアニュエーションを開設し、そこに元々持っていたスーパーアニュエーションをRoll Over(合体)してくれるように申請すると合体してくれます。
ご自分がどのスーパーアニュエーションなのか分からない、という方はお客様限定、弊社サービスをご利用になる前提でお調べいたします。既存のお客様は非公開お客様専用メールに、その他の方はお問い合わせからご連絡を。昔ワーホリや学生ビザの時に持ってて忘れていたスーパーアニュエーションなど思いもしないスーパーアニュエーションに残高があるかもしれません。
スーパーアニュエーションの積み立て方法
スーパーアニュエーションにはどのような方法でお金が入っているのでしょう。
1 . Superannuation Guarantee
これは一番有名でご存じの方も多い、
雇われている場合に給料の11.5%を雇用主(雇う人)が給料に加えて支払うスーパーアニュエーション
です。
雇用主は3か月分をまとめて3か月毎の翌月の28日までにスーパーアニュエーションに支払う決まりになっています。例えば、1月、2月、3月分でしたら 4月28日までに支払われることになります。給料のようにすぐには振り込まれず、入金されるのは3か月に1回となります。払うのは雇用主です。
2. 自主的に払うスーパーアニュエーション
給料からのスーパーアニュエーションとは別に自主的に払うこともできます。そして、この自主的には2種類あり
- 税金に作用する、節税のための自分拠出スーパーアニュエーション
- 税金に作用しない、自分拠出スーパーアニュエーション
です。
節税のためのスーパーアニュエーションは雇用主を通して払ってもよいですし(Salary Sacrifice)、自分で振り込んでも構いません。ただし、この場合は節税として処理するのに所定の手続きがあります。
また、節税のためでない場合で、収入が53,564ドル(2020年度)以下の場合、払った額の半分をボーナスとして政府が追加してくれるSuperannuation Co-Contributionという制度もあります。収入額によっては経費計上目的のスーパーアニュエーションが意味をなさないため、こっちの方が得です。
節税のためのスーパーアニュエーションについては
をご覧ください。
ちなみに、ビジネスビザ、ワーホリ、学生ビザなど、永住ビザ、市民権者以外の一時滞在ビザ保持者はビザ失効、オーストラリア出国を条件にこの貯まったスーパーアニュエーションを引き出すことができます。詳しくは
永住ビザを一度でも申請したことのある方は返金申請はできません。仮にできたとしたらバレなかっただけです。
なんかスーパーアニュエーションの明細を見ているとFeeとかTaxとかいろいろ引かれてるんだけど、どゆこと‼
毎年送られてくるスーパーアニュエーションからの明細などを見ると、FeeやらContribution Taxやらよく分からないものでマイナスになっているのを見たことがある方がいるかと思います。ただ単に減っているのはシャクなので一つずつ引かれている中身を見てみましょう。
1. Fee – 手数料
スーパーアニュエーションは上記の通り、投資ファンドにお金を預けて、それを投資のプロが運用して増やす努力をしています。このFeeはその増やす努力をしていることに対する手数料のようなものです。ただ、当然成功報酬でもないので、運用がうまくいかず残高が減った、増えてないといっても手数料は取られます。あとは銀行の口座手数料のようにスーパーアニュエーションの口座維持手数料という名目でも取られます。また、ファイナンシャルプランナーなどを使うと、その手数料も取られることがあります。
2. Contribution Tax – 税金
次はContribution Taxです。ほとんどの方は知らないのですが、
- スーパーアニュエーションに入金があった瞬間
- スーパーの運用がうまくいき利益が出たら利益に対し
15%の税金がかかります。
ただ、自分がこの税金を払った記憶はないかと思います。どういうことかというと、
スーパーアニュエーションが税金を払っているのです。この税率は一律15%。スーパーアニュエーションに入金されたお金や運用益(残高が増える)に対し15%の税金がかかるのです。スーパーアニュエーション自身もスーパーアニュエーションタックスリターンを申告して納税しています。
スーパーアニュエーションが税金を払うということは、スーパーアニュエーションファンドがスーパーアニュエーションの中にある自分の箱の中から税金分を取ってATOに払います。だからマイナスになって残高が減るのを見るのです。
例えば、今週の給料が1,000ドルで、スーパーアニュエーションが10%の100ドルです。この100ドルがスーパーアニュエーションに入金されると15%が税金ですので、
入金 100ドル プラス
税金 100ドル x 15% = 15ドル マイナス
となるのです。
つまり、100ドルスーパーアニュエーションに入金され、残高は85ドル増えます。
そして、スーパーアニュエーション自身がタックスリターンを申告し、全部の箱のこれらの税金をATOに納税することになります。
そして、スーパーアニュエーションがこの85ドルをうまく運用してくれて、会計年度内に125ドルになったとします。40ドルのプラスです。そうすると、この40ドルは利益ですので、税金がかかってきます。この結果、
運用益 40ドル
税金 40ドル x 15% = 6ドル
となります。
結果として、100ドル入れて、15ドル税金を取られ、40ドルプラスになり、6ドル税金を取られ残高は119ドル増えます。
3. スーパーアニュエーションの中で加入している保険
そして、一番大きいのが、
保険
です。
スーパーアニュエーションには失業保険、トラウマ保険、傷害者保険、生命保険など保険が付随しています。保険ですので保険料が発生します。この保険料がスーパーアニュエーションから引かれます。自分で保険に加入していることを知っていればよいのですが、知らずに知らない間に保険料だけ引かれている、というケースも少なくありません。
良い点
- 実際に請求書をもらって払うのではなく、保険料をスーパーアニュエーションの残高から払う(残高が減る)ので実際の支払いがなく保険を組める。
- スーパーアニュエーションの保険料の方が安いことがある。
悪い点
この国の保険ほど無駄なものはありません。全部掛け捨てです。いざとなったらある程度の収入についてはセンターリンク様の補助金もあり、雇われ勤務中の怪我については労災(ワークカバー)もあります。本当に保険が必要なのか、保険屋はああは言うが、本当に高いお金を払ってまで必要なのか、というところがあります。
この保険がスーパーアニュエーションに組み込まれていて、もしくは開設時によく読まずにティックなんかを入れてしまい、保険に加入しているケースです。以前によくあったのが、ファイナンシャルプランナーに頼んでいたら勝手に保険に加入していた、というケースです。手数料商売なので保険に加入していれば仲介者に手数料入るという按配です。このように保険なんか必要ないのに、勝手に保険料が引かれていたというケースがあります。
逆に上記のように、実際の支払いがなく、スーパーアニュエーションの残高から保険料の支払いをできるので、保険が必要な人には悪い話ではありません。ただし、当然保険を希望して組んでいるのに保険料でスーパーアニュエーションの残高が減っている、と文句は言ってはいけません。それは保険料です。
あとは自分がスーパーアニュエーションで生命保険や失業保険に加入しているのに、別途同じ種類の保険をスーパーアニュエーション以外で組んでいるとすれば二重になっているということです。
ちなみに、Income Protection Insurance(失業保険)のみタックスリターンで経費計上可能です。収入が約21,000ドルより多い場合はスーパーアニュエーションではなく別個に自分でIncome Protection Insuranceを掛けた方が節税になります。
スーパーアニュエーションに関するよくある質問
自営業なのですが、スーパーアニュエーションに入れた方がよいですか?
個人事業主(Sole Trader)の場合は会社(Company)と異なり、自分のスーパーアニュエーションは
払いたければ払ってよいし、払いたくなければ払わなくてもよい。けど払ったら税金が安くなるよ
というスタンスです。
つまり、払えば節税には繋がりますが、収入次第では上記にある通りスーパーアニュエーションに入れた瞬間15%の税金が取られるので効果がありません。
スーパーアニュエーションに入れると節税になると聞いたのですが
これは本当です。ただし、
節税になると言っても自分の収入額によっては大して節税になりません。というのも上記にある通り、スーパーアニュエーションに入れた瞬間15%の税金が取られるからです。この15%の税金と自分の所得税の税率を天秤にかけることになります。スーパーアニュエーションの税率は非課税枠はなく、個人所得税は非課税枠があるので、単純に税率がどっちが大きいという問題でもなく、また、スーパーアニュエーションは一回入れると基本的には出せません。大した額でもない節税額のために、老後まで使えないお金になってしまう事も考慮に入れる必要があります。
スーパーアニュエーションによる節税はある程度の収入がある方、すでに持ち家を持っていてローンも少ない方向けです。
スーパーアニュエーションを2つ持っているのですが
スーパーアニュエーションを2つ持っていること自体は問題ではありません。ただ、通常は1つにまとめます。残したいスーパーアニュエーションに連絡すれば合体してくれます。もちろん、複数のスーパーアニュエーションでリスクを分散させたいという場合は複数持っていても構いませんが、きちんと忘れず全部管理しましょう。
複数持っているとリスクを分散できるメリットはありますが、手数料を二つ分取られます。
スーパーアニュエーションの積み立てを自宅購入に使えると聞いたのですが
1人最大50,000ドルまで、夫婦で100,000ドルまでファーストホームの購入目的でスーパーアニュエーションを拠出、自宅購入時引き出すことができます。そしてこれ、引き出した際に税金はかかりますが、30%の税控除が自分の個人タックスリターンでもらえます。元々スーパーアニュエーションの拠出で15%の税金をスーパーアニュエーションの中で取られ、個人タックスリターンで30%の税控除をもらえるというわけです。
コロナ禍での特別スーパーアニュエーション引き出し、COVID-19 Early Release of Super(終了)
現在コロナ禍の特別措置として、スーパーアニュエーションが特別に引き出せます。引き出せるだけでもすごいのですが、引き出したスーパーアニュエーションに対して、なんと
無税(税金がかからない)
です。
通常は税金がかかりますし、ファミリタックスベネフィットの受給額も減ります。
当然ですが、引き出すと残高は減るので、その分老後に使えるお金は少なくなります。貯めていたスーパーアニュエーションの老後資金の前借りと考えればよいでしょう。
今回のこのコロナ禍のスーパーアニュエーションの引き出しですが、スーパーアニュエーションファンド側からすると、半年間で1人最大20,000ドルを現金で返すわけです。上記にある通り、スーパーアニュエーションは皆からお金を集めてそれを株や不動産など現金以外のものに投資しています。つまり現金以外に化けています。そうなると、多くの人がスーパーアニュエーションの引き出しを求め、その分の現金がないとなると、投資している不動産や株を売却しないと現金化できないのです。そうなるとどうなるか、現金がないスーパーアニュエーションファンドはましてこの景気の悪い今、株や不動産を低い値で売って無理やり現金化する必要が出てきます。
その結果どうなるか、
業績悪化でピンチになるスーパーアニュエーションが出てくる
ということです。
ただ、自分のスーパーアニュエーションが破たんして全滅ということはほぼありません。オーストラリアでは頻繁にスーパーアニュエーションの合併、買収が繰り返されています。業績が悪くなってもどこかが買収し、生き残ります。もちろん運用益は悪くなるので残高が下がることは予想されます。
スーパーアニュエーションの扱いは人によってそれぞれ
複雑なスーパーアニュエーション。その方の収入額、どのような収入源があるか、ライフプランニングなど個々人によってスーパーアニュエーションへの拠出の意味、効果は変わってきます。詳しくはご相談ください。
弊社は税理士ですので税金にかかるインパクトは当然のこと、紹介業や仲介業ではなく税金に特化していますのでファイナンシャルプランナーと税理士を一緒にやっているところなどとは異なり、税金の専門家として中立な立場でのアドバイスができます。
これを読んでもまだそこらの今の税理士を使ったり、自分でタックスリターン申告しますか?