日豪プレスで反響の大きかった記事の加筆版です。
本来こんな言葉があること自体がおかしい“キャッシュジョブ”
オーストラリアで一度は聞く”キャッシュジョブ”。最近は特に素人がブログなどで使うので、広まってきた言葉です。現金で給料を払って、働いていなかったことにするのが通称”キャッシュジョブ”です。違法賃金で人件費を抑えようとするビジネスがあることをご存知の方も多いでしょう。ひどいところだと時給10ドルや12ドルなどというところも。こういうビジネスでFair Workの摘発にあり、不足賃金の支払い、および数万ドル、数十万ドルの罰金を受けて、一気に全てを失うビジネスもあります。日本人でも逆名誉の新聞に登場、という方もいます。そもそも”キャッシュジョブ”と”タックスジョブ”ということを言っているだけで無知の露呈となります。
この通称“キャッシュジョブ”ですが、
現金で払うことにより、その従業員がいなかったことにする → 公式には記録がない
ということで最低賃金を下回る違法賃金で働かせ、スーパーアニュエーションの支払いも免れるという按排です。そもそもいなかったことになっているので、ATOへの給与報告もなければ、タックスリターンで申告のしようもありません。これについては後述しますが、働いた方も問題となります。ちなみに、ちゃんとやってて、現金で給料を渡すこと自体は問題ありません。中には銀行振込ではなく現金手渡しで給料を渡すビジネスもあるでしょう。
「ABNで働いて」というのも不正の温床であることが多いことも事実です。ABNで自営業として働かせることにより、最低賃金に抵触しないよう、スーパーアニュエーションを払われなくてよいようにしようという根端です。このABNの間違った使い方は働く方もABNの不正利用となります。
我々はFair WorkでもATOでもないので取り締まる気もありません。
ただ、
正しい知識を持って不正をするのと、無知なのに不正をするのとでは大きな違い
だけです。
Ezy Tax Solutions の方針は正しい知識を持った上で、ビジネスを行ってほしいということです。その後はビジネスオーナー様次第です。多くの会計士は見てみぬふりをする、そもそも正しい知識がない、知ったこっちゃない、管轄外だから知らない、というスタンスを取ります。
税効果を考えるとインチキする意味があるのか
ただ、これが一概に得ではないのです。当然、いつかバレるリスク、従業員に密告されるリスクなどあります。その結果、何万ドル、何十万ドルの支払い、罰金を科され、裁判所行き、ウェブサイトで世界中に公告されることになりますが、税金面でわざわざ危険を冒してまで不正をして、本当に得なのかを考察してみましょう。
まず、現金で給料を払って働いていないことにする場合、給料を経費として計上できません。いないことになっているので当然です。最低賃金も払ってないのに経費計上するのは自爆の愚かの骨頂。そしてシングルタッチペイロールが始まります。
現在オーストラリアの最低賃金は時給18.93ドル(2019年2月現在)。業種やその従業員の任務によって最低賃金は上がっていきますし、有給休暇のないカジュアルの場合は25%増しとなります。ただ、ここでは最低の最低の18.93ドルで計算します。業界別の賃金の詳細はAwardで定められています。
18.93ドルの給料に対し、スーパーアニュエーションは9.5%の1.8ドルです。スーパーアニュエーションは給料にプラスして払われるものなので、一人の従業員に対し、1時間あたりの人件費は合計の20.73 ドルとなります。
法人(会社)でビジネスをしている場合、法人税率が(スモールビジネスの場合)27.5%となります。人件費は立派な経費ですので、給料をきちんと払うことで税金が減ります。この20.73ドルの給料に対する税金の減額(税効果)は 20.73ドルの27.5%の5.7ドルとなります。
要するに、税金も考えると実質手元から出ていくお金は20.73ドル – 5.7ドルの15.03ドルとなります。つまり、現金で15ドル払うくらいなら、きちんと払った方がバレた時のリスク、税効果を考えると得になるのです。13ドルでも2.03ドルのためにバレるリスクを取るかどうかも考える必要があります。20.73ドルが増えると税効果も増えていきます。24ドルなら税効果は6.6ドルとなり、5.33ドルより多い税効果となります。このケースは税率が一定の法人(会社)を使い、一番最低の給料を使いましたが、多くの業界で通常この18.93ドルを上回ります。レストランで言うと、一番最低のレベルは最初の3か月のみの適応となり、それ以降は上げる必要があります。Sole Trader (自営業者)でも自分の該当税率で同じことが言えます。これに加え、スーパーアニュエーションの支払いは3か月ごと、給料からの税金の源泉徴収の支払いは(ビジネスにより)1か月や3か月ごとです。つまり人件費の一部の支払いも先に延び、資金繰りもよくなります。
この
経費を考えた税効果を踏まえて、出費を考えるという考え方
は、人件費に限らず他の経費に関しても大切な考え方となります。
最低賃金はあくまで最低。
頑張った従業員にボーナスをあげることで節税につなげることも可能です。
カジュアル契約がお勧め
雇用主様はどうせ同じお金を払うのなら、払いたい人に払いたいものです。よって、すぐにクビにできるよう
最初はカジュアルでの採用を
お勧めします。
確かにカジュアルは時給が25%増しですが、有給休暇もないですし、いつでも辞めてもらえるということを考えると、最初の数週間や数か月はカジュアルで雇っていつでもクビにできるようにしておくのがよいでしょう。できないスタッフを雇ったことを後悔するよりはよっぽど安くつきます。
そして今度は働く方の側から
”キャッシュジョブ”で働く方も不法労働者
働く方も“キャッシュジョブ”というのは立派な不法労働です。雇用主(雇う会社)が不正をしても、不正に加担しているのと何も変わりません。日本で外国人が水面下で働いているのを想像してもらえると分かるでしょう。まず、キャッシュジョブというのは現金で給料を受け取り申告しない所得隠しで、ATOのBlack Economy Provisionに抵触します。特にワーホリの場合はもろに脱税です。ワーホリにとっては税金を払った方が現金で最低賃金以下の給料をもらうより多く手元に残ることも多。
そして、
働いていないことになっているので、勤務中に怪我した際に労災も出ません。
無知は罪です。無知が故に悪い雇用主に騙されてしまうのです。
仮にビザをスポンサーしてもらっているなど、訴えられない弱みがあるといっても、こういう雇用主が不正を行っている場合、Fair Workに訴えた場合はビザは剥奪されません。
Fair Work Ombudsmanでは日本語での密告、報告も受け付けているのでどんどん報告することです。特に同僚などと集団で報告することです。
働く方も考える必要がある
次に雇用主の立場を考えてみましょう。確かにインチキする雇用主は擁護できません。ただ、オーストラリアは人件費が高く、それがビジネスを圧迫し、ビジネスオーナー様は必死に働いてもあまり利益がないため何のために働いているのか、と思うことも多々です。オーストラリアはスモールビジネスの被雇用者(雇われている人)が6割と、スモールビジネスが潰れていくと雇用の受け皿が減っていくのも事実です。
雇用主からするとどうせ同じオーストラリアの高い人件費を払うなら、できる人がいい、やる気のある人がよい、と思うのは当然です。働く側は権利ばかり主張せず、義務も追行する必要があるのは言うまでもありません。いつまでもアッパラパーな雇われる側にも問題があります。最低賃金を払っていれば、そこから上は雇用主次第、本人の実力、貢献次第となります。これは当たり前で、ビジネスの売上が上がらないのに給料だけ意味もなく上げることもできません。もちろん、適正に評価されていないと思う場合は、交渉ということになります。
以前に自分の最低賃金はレベルXXなのでもっと時給を上げるべきだという方がいました。しかし、一向にできるようにならないため仕事は多いのに、その方には任せられない、任せるとむしろ仕事が増えるというケースがありました。雇う方からすると、時給を上げるくらいなら、早くできるようになってもらいたいし、何もしないでくれた方が助かるほどです。前から任務レベルが変わってないのでレベルが上がることはありません。これは働く側からするととても残念なことです。
あなたはオーストラリアに来てまでブラック企業を経営したいですか?
あなたはオーストラリアに来てまでブラック企業で働きたいですか?
普通の税理士、会計士ではこんなことを述べる人はいないと思いますが、ぜひ知っておいてほしい内容です。本来は損得ではありません。せっかくオーストラリアに住んで、日本人が同じ日本人を搾取することが起こらないに越したことはありません。
こんなことが言える会計士はEzy Taxだけでしょう。ビジネスオーナー様も働く方もご相談、コンサルティングを受け付けております。