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【ネガティブギアリング】 – オーストラリアの不動産投資と節税対策【税理士解説】

投資に興味のある方はなんとなく聞いたことがあるかもしれないNegative Gearing(ネガティブギアリング)という言葉。オーストラリアの節税対策としても有名です。ネガティブギアリングとは不動産などの投資でできる損失を利用し、節税など富を増やす目的で行うものです。その損失により特に不動産関係で聞くことがあることが多いかと思いますが、本来は不動産に限らず投資全般に使う言葉です。

先の選挙ではこのネガティブギアリングによる節税に制限額を設けるとか、できないようにするとかという話が焦点となりました。不動産業界は冷や汗ものだったのではないでしょうか。将来的にまたこの制度変更案は復活するかもしれません。

さて、よくある教科書通りの会計士やファイナンシャルプランナーのお話ではなく、ここではもうちょっと深く掘り下げて考えてみましょう

ネガティブギアリングとポジティブギアリング

ネガティブギアリングとは

  1. お金を借りて投資をし、
  2. 投資収入よりも投資にかかる借入利息プラス費用の方が多いために損失を作り、
  3. この損失を挽回する売却益を得る

ことを言います。投資収入から投資費用を引いた損失をRevenue Lossといいます。

特にオーストラリアはゼロ金利政策の日本に比べて借入金利(お金を借りた際に払う利息額)が高く、利息額が高いために損失になるケースが多々あります。一時は日本のサラ金並みの利率でした。それでも最近は公定歩合も下がり、銀行のローン利率も下がっているので、ローンを組んで購入しても以前ほど損失になるケースが少なくなってきました。

このネガティブギアリング、当たり前ですが損失なのでロスです。損失=マイナス、ということでネガティブと呼びます。しかし、将来値上がりが起こった場合に売却益を得ることでこのロスを挽回し、利益を得るという戦略がネガティブギアリングです。この売った時に得る利益を専門用語でCapital Gain(キャピタルゲイン)といいます。

これに対しポジティブギアリングはこの逆で投資収入よりもかかる費用が少なく、投資自体で利益が出ている状態です(Income Gain)。これに加え、売却益もある場合は上記のキャピタルゲイン(Capital Gain)も得られます。

不動産投資によるネガティブギアリングは強力な節税対策

ネガティブギアリングですが、大きなポイントとして税金上のベネフィットがあります。

元々、不動産による節税の方でネガティブギアリングは有名になったという方が正しいかもしれません。現在の税法では、投資での損失は他の収入と相殺できます。投資での損失はマイナスなので他の収入と相殺し総収入が減るわけです。この結果、税金が減るという案配です。つまり、タックスリターンでの返金が増えます。逆に言えば、収入が少ないとネガティブギアリングで税金が減るとはいっても相殺する収入が少ないため効果がないことがあります。

忘れていはいけないのがその分結構な額のローンの利息を払っているということです。

おまけですが、この投資損失はファミリータックスベネフィットの増加にはつながりません。つまり、不動産投資で損失を作り課税収入を下げても、税金は減るがファミリータックスベネフィットの受給額は増えません。また、Div43 Capital Works Deduction(建物減価償却) を計上することでさらなる損失を計上し大きく節税できます。こちらもご覧ください。

ここで賃貸不動産によるネガティブギアリングの例を見てみましょう。

一発太郎さん、42歳、ブリスベン在住、神奈川県出身、妻、子供2人の4人家族、永住ビザは

  • 雇用(雇われること)での年収80,000ドル
  • 仕事のための経費なし
  • Eastpac銀行で500,000のローンを組んで、VIC州Richmondに500,000ドルのアパートメントを購入、賃貸に出す
  • 賃貸収入が週450ドルで年間23,400ドル
  • ローン年間利息4%で20,000ドル
  • レイツ、水道代、ボディーコーポレイト、不動産業者手数料、保険、修理などなど含め、賃貸不動産にかかる費用が年間8,000ドル

とします。

話を簡単にするため下記を仮定します。

  • ローン利息額はローンの支払いとともに残高が減ることで毎年減る可能性があるが、ここでは考慮しない。
  • ビジネス収入、他の投資収入、オーストラリア外収入など他の収入はないものとする。
  • レント額を上げたり、レイツなど費用が上がったりなどインフレーション効果(物価の上がり下がり)はないものとする。
  • あくまでお金がどれだけ残るかの計算なので、値上がり益(キャピタルゲイン)、もし売ったとしたらという仮想売却益に関しては考慮しない。

 

以下の3ケースで考えてみましょう。

  1. 不動産投資なし
  2. ローンを組んで賃貸不動産を購入
  3. ローンなしで賃貸不動産を購入

 

不動産投資なし ローンで
賃貸不動産購入
ローンなしで
賃貸不動産購入
給料 $80,000 $80,000 $80,000
賃貸収入 $0 $23,400 $23,400
ローン利息 $0 -$20,000 $0
賃貸関連費用 $0 -$8,000 -$8,000
課税収入 $80,000 $75,400 $95,400
メディケア税を加えた税金額 $18,067 $16,480 $23,785
純利益 $61,933 $58,920 $71,615
  • 2020年の税率で計算
  • 永住ビザ、オーストラリア市民権者以外はメディケア税を免除できる

 

表をご覧いただくと分かりますが、ネガティブギアリングはあくまで損失なので、2番のローンで賃貸不動産を購入、のケースが一番お金が残りません。当たり前ですが、税金は減るといっても一番損失を出しているのは2番だからです。これは経費にも同じ考えが当てはまり、いくら税金が減るからといっても、費用は使った分税金が減るわけではないので、手元にお金を残すには必要ないのなら費用はないに越したことはないのです。

最も多く税金はかかりますが、最も手元に残るのがやはりローンなしで賃貸不動産を購入するケースです。オーストラリアにはお金持ち2世の日本人が多いとはいえ、なかなか多くの人には難しいかもしれません。お金のある方がお金を生みやすく、有利という所以です。競馬も元金がある方が有利です。

しかし、2番が大きな節税になるのは事実です。表からローンで賃貸不動産を購入した場合が一番税金額が低いのが分かるでしょう。将来的に値上がりすれば、節税をしてかつ売却益も得るということが可能です。

この節税もしつつ、売った時に売却益も得る、というのがネガティブギアリングの真骨頂

です。

特にオーストラリアはローン金利も高く、まだまだ不動産神話がまかり通っています。利息額も高く、実際値上がりするケースが今でも多々あることが、ネガティブギアリングがまだまだ有効な節税戦略となることが多い理由です。裏を返せば、大して値上がりしないのなら、損失を作っているのは事実なのであまり効果はありません。

ネガティブギアリングのせいで不動産投資熱に火が付き、不動産価格高騰の要因となっている部分もあります。価格高騰でマイホームを買えない方が増える一方、結局はローンも借りられる、不動産投資をできる、ある程度の収入がある財力のある方、そして節税にもなり、ある種の金持ち優遇策とも言えます。

Income Gainを目的とするという考え方

ローン残高が減ることで支払い利息が減ったり、ローンを完済し賃貸不動産から利益を得られるようになった場合に投資収入を得られるというメリットがあります。つまり、その時から上記の3番になるということです。

総節税分と総支払利息、賃貸不動産から利益を得られるようになってからの総利益を考え、後者が結果的に多ければ売却益がない場合でも有効な戦略

となります。

例えば、若い時にバリバリ働き、ネガティブギアリングで節税、ローンを返済、老後の収入源を確保するなどの戦略としては有効な手段です。Capital Gain(キャピタルゲイン)目的より投資収入(Income Gain)を狙うという考え方です。特に金利が下がっている昨今はローン残高が減ることで、支払い利息が減り、かつてよりは早い段階からネガティブギアリングからポジティブギアリングに移るようになっています。また、今までは定期預金でもかなりの利息収入を得られましたが、定期預金の利率の減少により不動産投資での投資収入を狙った利回りも魅力となってくることが考えられます。例えば、定期預金の利率が1.5%で(2000年代は9,10%あったことがある)不動産投資の利回りが5%といった感じです。今の日本のように定期預金では増えないという状況です(それでもオーストラリアの定期預金は日本からすると夢のような利率なのですが)。

また、Capital Gain(キャピタルゲイン)を狙うのか、Income Gain(投資収入)が目的なのかにより購入する物件も変わってくるでしょう。やはりIncome Gainを狙っていくなら空室期間が少ない物件、高い家賃が取れる物件(ホテルタイプなども含む)、ボディーコーポレートのような費用が少ない物件が考えられます。

いろいろな観点から考えよう

このように投資する際、特に不動産投資は

  • まだまだオーストラリアの不動産は値上がりしますよ
  • ローン金利が下がってきた今だからチャンス
  • 不動産で節税できます

などアドバイスに流されず総合的な見地から考えることが大切になります。特に我々日本人はバブル経済を経験した国の出身者です。

賃貸不動産購入にはStamp Duty(スタンプデューティー)がかかり、購入、売却には弁護士費用、売る際の不動産業者手数料などかかります。ローンを組むとちゃっかり手数料を取られます。このような気付きにくい費用も考えなくてはなりません。インフレ率(物価が上がったり下がったりすること)やそのお金で何かできなくなるコスト、機会費用も考慮する必要があるでしょう。

一人名義で買うのか、誰かと半々の共同名義で買うのか、半々以外の割合で買うのか、トラストなど他の事業形態で買うのかといった、”誰が買うのか”も考慮に入れる必要があります。すでにかなりの現金資産がある、スーパーアニュエーションに残高がある高所得者は自分スーパーアニュエーション(Self Managed Super Fund)での購入も検討する価値があります。

ビジネスや人生にも生きる利回りの考え方、ローンの会計上のインパクト、一番の投資法など、まだまだ機会があれば講演やコラムでご紹介できるかもしれません。

そして何より不動産収入、売却の際のタックスリターンは正しく申告しましょう。

年間200以上の不動産収入のあるタックスリターンを担当し、不動産税務専門のEzy Taxでタックスリターン、アドバイス、ファイナンシャルプランナーや不動産業者のアドバイスからのセカンドオピニオンも可能です。